ラボ通信(ブログ)

2022/02/01 10:32

2021年1月そして2022年1月、HIVをテーマにした2冊の書籍が出版されました。
1990年代のテーマがおよそ30年の時を経て出版されることは、単なる偶然ではない歴史的な振り返りの意義も感じます。

『テイキング・ターンズ HIV/エイズケア371病棟の物』(MK・サーウィック 中垣 恒太郎, 濱田 真紀訳)は、2022年1月にサウザンコミックスより出版されました。
本作は、当『倫理教材Lab.』でも「推し」ているグラフィック・メディスン関連の作品です。

この作品はいわゆる「医療マンガ」で、1994年から2000年までのHIV/エイズケア病棟での看護師勤務経験に基づく回想録になっています。
タイトルにある371病棟とは、HIV/エイズに特化した緩和ケア病棟のこと。
そこで繰り広げられる死と隣り合わせの患者との日常が、素朴ながらも芸術的な表現を交え、淡々と描かれていきます。
本書で描かれるエイズに対する恐怖がパニックを引き起こしていた1990年代は、コロナと苦闘する私たちの今と重なるようにも感じられました。
担当患者が数か月から数年で亡くなってしまう中での看取り。
ひとりの新米看護師がどのように感じ、どのように向き合っていたのか、患者の病の経験への理解と共感を感じ考えることができる作品です。

作者のMK・サーウィックは「グラフィック・メディスン」の中心メンバーでもあり、患者との共感と良好なコミュニケーションを築くためのツールとして医療現場にマンガを導入する試みをすすめています。
グラフィック・メディスンの取組みに興味のある方は、日本グラフィック・メディスン協会のサイトをご覧ください。

もう1冊は2021年1月に出版された社会学者山田富秋さんによる『生きられた経験の社会学 (松山大学研究叢書 第 106巻 2021/1/26)』です。

本書では、日本の薬害エイズの問題がとりあげられています。
当時血友病製剤のリスクについて諸外国では早々にフィールドワークがスタートしていましたが、日本では調査の遅れが指摘されていました。
著者の山田さんは薬害エイズ問題に関する当事者の声を集めるフィールドワーク調査を担った方です。
学術的な専門書ではありますが、ハンセン病、薬害エイズ問題の当事者の声とその「生きづらさ」について伝えています。

1990年代という同時代を映すこの2冊の書籍が大きな時差なく出版されたことは、単なる偶然ではない気もします。
一方はアート作品、もう一方は学術書ではありますが、コミックアーティストと社会学者が、情報をまとめ整理し考察し昇華するために、同じく必要な時間があったのだと感じました。それは同時に当事者たちの現在につながるのでしょう。
気になった方は是非読んでみてください。


◆『倫理教材Lab.』も同じテーマの商品を販売しています。

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